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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)7384号 判決 1962年3月26日

判  決

東京都江戸川区西小松川二丁目一、〇六九番地

原告

岩田喜一郎

(ほか三名)

右四名訴訟代理人弁護士

谷村直雄

関原勇

東京都葛飾区平井中町五八九番地

被告

日軽アルミニウム工業株式会社

右代表者代表取締役

中川仲蔵

右訴訟代理人弁護士

根本松男

右当事者間の昭和三三年(ワ)第七、三八四号解雇無効確認事件について、当裁判所は次のとおり判決する。主  文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

一、当事者双方の求める裁判

原告ら訴訟代理人は、「原告らと被告との間に雇傭契約に基ずく法律関係が存在することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告訴訟代理人は主文第一項と判決を求めた。

二、請求の原因<以下省略>

五、証拠(省略)

理由

一、被告が昭和二五年一一月当時その商号を「株式会社那須アルミニウム製造所」と称していたところ、その後これを「那須アルミニウム工業株式会社」に、続いて昭和三三年五月二六日現在の名称に変更したこと、原告らがいずれもかねて被告に雇傭されていたが、被告より昭和二五年一一月六日以後被告との間に雇傭関係のないものとして取扱われて来ていることは、当事者間に争いがない。

二、被告が上記のように原告らをその雇傭にかかる従業員として処遇しなくなつた原因に関して、原告らは被告より昭和二五年一一月六日付で解雇の意思表示がなされたことによるものであると主張するのに対して、被告はこれを争い、右同日から同月九日までの間に当事者間に成立した合意に基く雇傭契約の解除によるものであると主張する。

被告が昭和二五年一一月六日原告らに対し同日付の「通告書」と題する書面により、同日をもつて原告らを解職するが、原告らにおいて依願退職の取扱いをして欲しい旨申出でた場合にはその取扱いをする旨通告したことは、当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第一号証ないし甲第四号証によると、前示通告書の記載内容の詳細は左のとおりであつたこと、即ち、「昭和二十五年十一月六日会社は組合と協議した理由によつて十一月六日附をもつて貴殿を解職することに決定しました依て会社は貴殿に対する本通告書をもつて辞令にかえ十一月六日かぎり貴殿を解職致します解職の方法については所属課長又は所属部長に依願退職の取扱いをされたい旨届出でた場合は依願退職の取扱いをすることを通知致します尚退職金は左記により御支払い致します」との冒頭の文章(原告岩田喜一郎あての甲第一号証の記載による。その余の原告らあての甲第二号証ないし甲第四号証においては、解職の方法に関する部分の記載は、「解職の方法につき会社は組合と協定した線に沿つて貴殿が来る十一月九日午後四時迄に所属課長又は所属部長に依願退職の取扱いをされたい旨届出でた場合には依願退職の取扱いをすることを通知致します」となつていた。)に続いて、支払うべき退職金の額(税込)を、期日までに退職願を提出した場合と解職の場合とに別け、前者の場合については(イ)退職金規程第三条による退職金、(ロ)同規程第一一条による退職金、(ハ)特別退職金基本給の三ケ月分及び(ニ)特別銭別金、後者の場合には右(ニ)以外のものとしてそれぞれ計上し、その支払の日時場所を指定してあつたことが認められる。

さて被告から原告らに対して前記のような通告書が発せられるに至つたまでの経緯について調べてみるに、(証拠)を総合すると、被告は、かねて連合国軍最高司令官ダグラス・マツクアーサーから数次にわたり発せられた声明書及び書簡の趣旨に鑑み(上記のような声明書及び書簡の発せられたことは、当事者間に争いがない。)、企業の健全な維持発展を図るため、その従業員中業務を阻害する者、職場の秩序を破壊する者等を解雇することを内容とする人員整理の方針を定め、昭和二五年一一月六日の午前中原告らの加入していた労働組合と右方針に関する説明及び協議のため「緊急人員整理の件」という議題で団体交渉を行なつたこと、これには被告側からは社長、総務部長及び勤労課長が、労働組合側からはいわゆる三役が出席し、主として被告の総務部長より人員整理の必要性及びその基準等につき説明を加えた上組合の協力を要望した(被告と労働組合との間に右団体交渉が行われ、被告より上記のような説明のなされたことは、当事者間に争いがない。)が、労働組合ではその後執行委員会を開催して対策につき検討したけれども結論に達しないまま、大会を招集して討議した結果、諸般の情勢にかえりみて被告の実行しようとする人員整理に正面から反対して闘争を展開することは極めて困難な事態にある(被告と労働組合との間に開かれた前記団体交渉において被告から右人員整理がマツクアーサー元帥の声明書及び書簡に応じたいわゆるレッド・パージの一環として実行されるものであるとの趣旨は明らかにされなかつたけれども、組合側では情勢上そのことを察知していた。)との見通しに立つて、整理該当者のためにでき得る限り有利な待遇をさせるよう被告と交渉するといういわゆる条件闘争の方針を、多数決によつて決定したこと、その間被告においては人員整理該当者として原告らその他の氏名を発表し、各本人にその旨を「通告書」と題する内容証明郵便によつて通知した(その内容は当事者間に争いのないところとして前述したとおりである。)ことが認められる。上損証拠中右認定に反する部分は措信することができない。

そして原告らがいずれもその後被告から退職金を受領し、その際各自の退職に関しては一切被告と争いを生ずるようなことはしない旨を併記した受領書を被告に差入れ、なお、原告岩田喜一郎においては、その外に、被告から昭和二五年一一月六日付で通告を受けた解職の件を承認する旨の、「承認書」と題する書面を同月九日付で作成して被告に提出したことは、当事者間に争いがなく、(証拠)によると、原告らが被告より退職金として支払を受けた金額は、上述の昭和二五年一一月六日付通告書をもつて被告から原告らに提示された退職金額のうち、期日までに退職願を提出した場合についてのもの(但し、甲第一号証ないし甲第四号証において「退職金計算の基礎(基本給)に変更のあつたときは十一月三十日に精算する」と記載されていたところに従い、昭和二五年一一月中に行なわれた給与改定に応じた追加金額が加算された。)であつたことが認められるし、原告ら各本人尋問の結果によれば、原告らが前示書面を差入れて被告から退職金を受取つたのは、上掲通告書における被告の指定日の当日又はその一両日前であり、原告岩田喜一郎は退職金領収と引換えに右受領書の外前記承認書をも提出したものであることが認められる。

叙上のような経過からすれば、被告は昭和二五年一一月六日付の通告書によつて原告らに対し、同月九日午後四時までに(但し、原告岩田喜一郎に対しては日時の指定がなかつた。被告からの依願退職の勧告を受諾することにより雇傭契約の解除の合意が成立するならばその取扱いをすることを解除条件に、原告らを同月六日限り解雇する旨の通告、即ち雇傭契約の合意解除の申込と一方的な解雇の意思表示とをあわせしたところ、原告らは同月九日までの間にそれぞれ前記のような書面の作成提出と引換えに任意退職の場合に支給されるべき退職金額を受領することによつて被告の右申込を承諾したものと解される(被告は、原告らから別に口頭による承諾があつたと主張するが、そのような事実を認め得る証換はない。)ので、原告らと被告との雇傭契約は両者の合意によつて解除されたものといわなければならない。

原告らは被告から退職金を受領する際被告に差入れた書面(乙第一号証ないし第四号証の作成については、当時その記載内容を十分了知承認の上これに署名捺印したものではない旨主張し、原告梅沢正三の本人尋問の結果中には、同原告は強制的に受領書に署名させられた旨(なお、原告梅沢十四夫はその本人尋問の結果中において、同原告は被告から通告書を受取つた以後における被告との交渉は原告梅沢正三と同岩田喜一郎にまかせた旨供述している。)、原告長田己之助の本人尋問の結果中には、同原告は受領書に署名捺印する当時今後どうしたらよいかという気持で一杯で、その記載内容を読むゆとりがなかつた旨、原告岩田喜一郎の本人尋問の結果中には、同原告は被告の事務処理上の必要性を考慮して受領書及び承認書に署名捺印したのであつて、任意に退職する意思はなかつた旨の各供述があるが、いずれも措信することができない。なお、(証拠)によると、被告は原告らに対し前記通知書において、昭和二五年一一月六日午後四時以降事業場に立入ることを禁止する旨通知し、そのとおり実行したことが認められるけれども、このような事実のあつたことは、右通告によつて原告らに対し被告から上述のような雇傭契約の合意解除の申込がなされたことを否定しなければならない事情となるものでないことは当然である。

三、以上によつて、原告らと被告との雇傭契約は昭和二五年一一月九日までに成立した合意により解除されたものというべきであつて、右雇傭契約の存続を前提とする原告らの本訴請求は、いずれも理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条及び第九三条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一九部

裁判長裁判官 桑 原 正 憲

裁判官 北 川 弘 治

裁判官西山俊彦は転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官 桑 原 正 憲

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